▲北東アジアの変化は中国の台頭を軸に進み、その中で米国はアジア回帰を進めようとしている。この地域で始まっている変化をどのように考えていけばいいのか、不安定なこの北東アジアに平和的な秩序を今後、どのように形成していけばいいのか。それが、今回私たちが行った、日本、中国、韓国、米国の4か国共同世論調査の背景にある問題意識である。

 北東アジアの変化の行方や平和の現状に関して、4か国の国民がどう考えているか、それを明らかにしたいと考えたのは、こうした民意にこそ今、私たちがこれから考えなくてはならない、北東アジアの未来や平和に向けての課題や解決に向けた手掛かりが存在する、と思うからだ。


言論外交と北東アジアの平和に向けた課題解決

 日本と中国は尖閣諸島を巡る対立で政府間の交渉が途絶え、首脳間の対話再開には2年半を有することとなり、日韓の首脳会談も来月初めの開催に向けて、ようやく準備が整い始めたばかりである。言論NPOは、そうした環境下で中国や韓国との対話を進め、尖閣周辺での緊張が高まる中で、一昨年、中国との間で民間レベルだが、「不戦の誓い」を合意し、それを世界に公表し、北東アジアの平和秩序の形成に向けて、作業を開始している。

 ここで、私たちが提唱したのは、課題解決の意思を持つ世論を喚起し、多くの市民の支持を得て、国境を越える課題解決に取り組む新しい民間外交のあり方、「言論外交」である。私たちが外交において、世論の役割を重要視するのは、こうした民意の存在やその水準が、政府間の外交に大きな影響をもたらしているためである。特に北東アジアでは国民間のナショナリズムの存在が、政府間レベルの課題解決の障害になり、この地域に政府対話の空白を生み出してきた。

 民意に基づき、多くの市民の支持を得て課題の解決に取り組むことは、民主政治の市民参加のアプローチで有り、この地域の平和構築に向けた政府間の外交の環境づくり、基礎工事だと、私は考えている。そうした強い問題意識から、言論NPOは米国のシカゴグローバル評議会や、長い間、言論NPOの隣国との対話のパートナーでもあった韓国のEAI、さらに中国の零点研究コンサルティンググループに呼びかけ、今回の共同の世論調査に向けた作業が始まることとなった。

 今回、この事業に参加した4つのシンクタンクは自国や世界で広範な世論調査を実施し、民意の把握を軸に政策提案を行う、世界でも有数のシンクタンクである。私たちは、この3つの有力なシンクタンクと共同で、この北東アジア地域内の現状や将来に対する、客観的で公正な世論の調査を行い、さらにこうした冷静な調査結果を元に、この地域の将来に向けた多国間の対話を行う、ことにも合意したのである。


共同の世論調査では何が明らかになったのか

 この4団体で合意したのは、北東アジアの将来や安全保障に関する9つの設問による世論調査実施であり、この4団体が毎年それぞれの国で実施する世論調査に、この9設問を入れ込む形で今年10月までに4か国のシンクタンクがそれぞれ調査を実施し、この4ヶ国で7000人を越える人がこの回答に協力している。

 今回公表するのはその9設問の調査結果であるが、言論NPOが中国との間で別途共同の世論調査を9月に実施したこともあり、さらに米国の設問に合わせる形で新たに4問を日中の国民に聞いている。このため、4か国の調査とは別に、この北東アジアの将来の課題を広範に問うために、この日米中の3か国の4問の結果も合わせてここで紹介する。

 今回の調査では、4か国の国民に、アジア各国の今後10年間の影響力や課題解決力の評価を行ったほか、地域紛争の可能性、2国間関係の重要性、お互いの国に対する信頼の度合い、さらに朝鮮半島の未来などを聞いている。


 調査で明らかになった4か国の民意は、おおよそ以下にまとめることができる。
まず、今後一〇年間にわたり中国はその影響力を増大させる、と4か国の国民は見ているが、米国のアジアへのリバランスはまだ国民レベルでは十分な理解を得ておらず、米国のこの10年間の影響力は現状維持程度だと見る人がこの4カ国に多い、ことである。

 しかし、こうした中国の影響力と各国の課題解決力、リーダーシップに対する評価は連動しておらず、日本と米国と、中国、そして韓国の国民にかなり大きな意識の差が見られた。この中で浮かび上がったのは、韓国国民の中国傾斜と、中国の国民にロシアや韓国に対する評価が相対的に高まっていることである。この傾向はこの地域の2国間関係の重要性や、信頼に対する国民の評価でも同様であり、米国から見れば同盟国間の協力連携に懸念を抱きかねない状況になっている。

 この地域の紛争の可能性に関しては、米中の国民が、中国の軍事増強や米国のこの地域での行動に懸念を強めていることが目立つ反面、尖閣諸島、台湾などの紛争の可能性に関して、関係国同士の間で、認識の差が出ている。

 米軍の存在に関しては日米韓の国民に、現状維持を求める声が多いが、紛争への米軍の介入に関しては、米国民の中にかなり消極的な見方が強く、特に朝鮮半島の平和統一後の米軍駐留に関して、それを必要とするかで米中、日韓の国民間に意識の差がある、ことも浮き彫りになっている。

 この北東アジアでは、中国の発展に伴うアジアの変化について、国民間の認識差が広がっており、政府レベルの同盟国間の協力の問題や紛争の危険性に関して、国民が懸念を強めている、ことも明らかになっている。

 この北東アジアでは、中国の発展に伴うアジアの変化について、国民間の認識差が広がっており、政府レベルの同盟国間の協力の問題や紛争の危険性に関して、国民が懸念を強めている、ことも明らかになっている。

 では、これらを個別に見ていくことにする。

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引用元:日米中韓4カ国共同世論調査日中韓米の共同世論調査で浮かび上がった北東アジアの将来に対する民意と平和への課題 | 言論外交の挑戦 | 特定非営利活動法人 言論NPO